多くの病院経営者が肌で感じている経営の圧迫感は、決して個別の問題ではなく、日本の医療業界全体が直面する構造的な課題の表れです。まずは、その現状を客観的なデータで確認し、なぜ今、補助金の戦略的な活用が不可欠なのかを深く掘り下げます。
近年、多くのメディアで報じられている通り、病院経営は極めて厳しい状況にあります。その客観的な根拠となる「令和6年病院経営実態調査」では、医業利益が赤字の病院が全体の8割を超えるという結果が示されました。
この深刻な赤字構造の背景には、医薬品や医療材料費、そして光熱費といった物価の高騰が直接的な要因として存在します。加えて、医療従事者の処遇改善や人材確保競争の激化に伴う人件費の上昇も避けられません。このように支出が増加し続ける一方で、診療報酬は必ずしもそれに完全には連動しないため、収益と費用のバランスが崩れ、利益を圧迫していることに多くの病院が直面しています。
この深刻な赤字構造の背景には、複数の要因が複合的に絡み合っています。
まず、医薬品費や光熱費といった物価の高騰、医療従事者の処遇改善に伴う人件費の上昇といった、恒常的なコスト増が経営を圧迫しています。
それに加え、コロナ禍後の特有の要因が追い打ちをかけています。一つは、コロナ禍中に受けた実質無利子・無担保融資(いわゆる「コロナ融資」)の返済が本格化し、キャッシュフローを圧迫している点。もう一つは、コロナ禍中に支給されていた病床確保料などの手厚い補助金が終了し、収益がコロナ前の水準、あるいはそれ以下に戻ってしまった点です。
このように、支出は増加し続ける一方で、診療報酬は必ずしもそれに連動せず、さらにコロナ関連の支援もなくなったことで収支のギャップが急拡大し、多くの病院が直面する深刻な利益圧迫に繋がっているのです。
このような厳しい状況だからこそ、経営改善の「切り札」として真剣に検討すべきなのが、国や自治体が提供する補助金・助成金です。金融機関からの融資とは異なり、原則として返済が不要な資金であるため、病院の財務状況を悪化させることなく、未来に向けた価値ある投資の原資とすることができます。
例えば、老朽化した医療機器の更新、業務効率を劇的に改善するデジタル化の推進、あるいは優秀な人材を確保・定着させるための職場環境改善など、これまでコストを理由に後回しにせざるを得なかった課題解決への大きな一歩を、補助金を活用することで踏み出せる可能性があるのです。
補助金・助成金は、厚生労働省、各自治体などから多岐にわたる制度が公募されており、全体像を把握するのは困難です。そこで、自院の経営課題という「目的」から関連する制度を探すのが、最も効率的で確実なアプローチです。ここでは、病院が抱える代表的な課題別に、どのような種類の支援制度が存在するのかを具体的にご紹介します。
高額な医療機器の導入やDX化、省エネ設備への更新といった「設備投資」などを支援するものが中心です 。公募期間が比較的短く 、提出した事業計画書が厳格に「審査」され、その中から採択される必要があるため、難易度が高く確実にもらえるとは限らないのが特徴です 。
一方、助成金は、国や自治体が定めた条件や取り組みを実施すれば「受け取ることができる支援」で、一定の基準を満たすことで比較的受給しやすい制度となっています。
| 項目 | 補助金 | 助成金 |
| 目的 | 国や自治体が 「新しい事業や設備投資」を応援する |
主に「雇用」や「人材育成」などを支援する |
| 競争性 | 審査あり (採択されないこともある) |
条件を満たせば基本もらえる (先着順や予算上限あり) |
| 例 | ものづくり補助金 IT導入補助金 |
雇用調整助成金 キャリアアップ助成金 |
| タイミング | 先にお金を使って、あとから交付される | 条件を満たせば申請後に支給される |
昨今の電気代やガス代、さまざまな医療用消耗品費の上昇は、病院経営に直接的な打撃を与えています。こうした状況に対応するため、国や多くの自治体では、光熱費の一部を補填したり、省エネルギー設備への更新を支援したりする補助金制度が用意されています。代表的なものに、高効率な空調設備や業務用給湯器への更新を支援する「省エネルギー投資促進支援事業費補助金」などがあります 。特に、都道府県や市区町村が独自に実施している支援金は、国の制度よりも申請要件が緩和されている場合があり、地域の実情に合わせて活用しやすい可能性があります。まずは自院が所在する自治体のホームページや広報誌などを定期的に確認することが重要です。
業務効率化を実現する上で、DX・デジタル化は避けては通れないテーマと言えるでしょう。これに応えるため、電子カルテの導入や更新、各部門システムとの連携、さらにはオンライン資格確認システムの整備といったIT投資を支援する補助金が複数存在します。中でも「IT導入補助金」は、事前に登録されたITベンダーと共同で申請する形式で、ソフトウェアだけでなく、関連するパソコンやタブレット端末の購入費用も対象となる場合があり、多くの医療機関で活用されています 。院内のペーパーレス化や情報共有の円滑化といった課題を抱えている場合に、まず検討すべき制度です。
医療の質は、最終的に「人」によって支えられています。医師や看護師はもちろん、技師、医療事務、その他のメディカルスタッフに至るまで、優秀な人材の確保、育成、そして定着は、病院経営の最重要課題です。これに応えるため、厚生労働省を中心に、職員のスキルアップやキャリア形成を支援する制度が充実しています。例えば、非正規雇用の職員を正社員に転換したり、処遇を改善したりした場合に支給される「キャリアアップ助成金」や、従業員の能力開発のための研修費用を助成する制度などがあります。職員のエンゲージメントを高め、長く働き続けてもらうための職場環境整備に、これらの助成金を有効活用することができます。
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ここでは、実際に補助金・助成金を活用して、具体的な経営課題の解決に成功した病院の事例を4つご紹介します。これらの事例は、自院の取組を考える上での具体的なヒントとなるはずです。
参考:働き方改革推進支援助成金
参考:業務改善助成金
参考:業務改善助成金
参考:省エネ補助金
本記事では、多くの病院が直面する厳しい経営状況を背景に、令和7年度に活用できる補助金・助成金の探し方や、実際の活用事例について、具体的なポイントを交えて解説しました。
物価高騰や人材不足など、病院経営を取り巻く外部環境は、今後も楽観視できるものではありません。しかし、国や自治体が提供する補助金・助成金というセーフティーネットを賢く活用することで、コストの壁を乗り越え、未来に向けた戦略的な一手 を打つことが可能です。
まずは自院の課題を改めて整理し、それを解決できる支援制度がないか情報収集を始めること。そして、必要であれば専門家の力も借りながら、この機会を確実な経営改善、そしてより良い医療の提供へと繋げていきましょう。